世間良しとは
                                                              平成24年6月25日

 経営者のお手本として、近江商人の教えがあります。近江商人とは、江戸時代以前から活動している滋賀県出身の商人です。彼らは、現在の複式簿記に似た記帳を考案したり、現在の合理的な商売の方法の基礎を作った人達です。現在でも近江商人の流れを汲むとされる大企業がたくさんあります。
 その近江商人の教えの中で、最も有名なものとして「三方よし」があります。この三方とは「売り手良し」「買い手よし」「世間良し」の三方の事を指します。

 売り手とは、品物を販売する「商売人」を指します。商売人が良しとする事とは、利益だけを追求する事を良しとしませんが、現実を見ず理想を掲げるだけで、自己満足に終わることもいけません。商売をすることで生計を成り立て、将来にわたって営業活動が出来る仕組み作りをすることを良しとしました。いわゆる経営観を持つことを大切としました。

 買い手とは、品物を買う「客」に当たる人を指しますから、お客が商品を買い、又はやサービスを受けることで、価格以上の満足感を得る事を良しとし、その満足感を人に伝えていただく事で商売に広がりをもたらす事を大切としました。

 では最後の、世間良しとは何でしょうか。世間とは世の中全体を指します。商売を通じて世間からも良しとされる事をしなければなりません。しかし、本当に「世間良し」とされる商売の方法があるのでしょうか。ある営業活動が上手くいけば行くほど、その反対に上手くいなくなる商売人が出てきてしまいます。例えば、名古屋から東京まで何日もかけて往復をしていたはずが、新幹線や高速道路の開発により現在では日帰りが出来るほどの高速移動が可能です。その為、途中の宿場町では客が減少し商売が成り立たなくなってしまいました。決して新幹線も高速道路も利益を追求するために開発されたわけではなく、世の中に役立つために作られたものです。また、仮に花粉症の薬が開発されたとしますと、花粉症に悩んでいた人が激減し、花粉症対策の道具は売れなくなります。市場として約2兆円が無くなってしまうのです。
つまり、商売にも陰日向があり、太陽を浴びる事が出来る人がいれば、必ずその影となってしまう人がいるのです。
 「世間良し」とは、世の中全体の幸せを願って、「真剣勝負」の世界で成り立っているのではないでしょうか。常に時代は流れ、新しい商売やサービスが出来ることで、今の生活を脅かされる事を覚悟し、これに常に対応しながら商売を続ける。類似商品が出れば、価格が下がるのも当然です。だからこそ、次なる新商品を探す。飽くなき努力を繰り返し、良い意味での戦いを挑んでいくことこそ、「世間良し」につながることを忘れてはいけません。
 「三方良し」は、今が良ければそれで良しとする「事なかれ主義」のような消極的な世界観ではありません。食うか食われるかの競争社会の中にある、積極的な世界観の中に生きる考え方である事を再認識しなければなりません。