損したり、得したり
                                                              平成26年8月25日

 中井祖門という禅僧のお話です。
 この方は腕っ節が強く、お坊さんでありながら、ときどき手荒いこともしたりして、あまり評判が良くないところがあったそうです。そこで、そういう自分の欠点を改めるべく、廃寺を復興しようと願を立てました。
 自分の欠点を直しつつ、廃寺を復興する。その願いを成就するためには資金がいる。まず、当時のお金で1,000円つくろうと決意した。そのためには、まず謙虚にならなければいけない。頭を下げることだ。そこで、「15万回、頭を下げる」ことにした。1人から2銭ずつもらうために、5万人と会い、それぞれ3回ずつ頭を下げる。
 まず、「寺を復興しようと思うので、ご協力をお願いしたい」と頭を下げる。運良く2銭を下さったら、「ありがとうございました」と頭を下げる。そして、名前を記帳してもらった時に、もう一遍、「ありがとうございます」と頭を下げる。それで、少なくとも15万回頭を下げることによって1,000円の金が集まる。そのために、あちこちに行脚した。
 坂を2つ越えていくところに、大きな構えをした家があった。いわゆる富豪がいた。そこへ行って、「お願いします」と言っても、「お通り、お通り」と、さっぱり出してくれない。お坊さんは「よし、これに金を出させんと、ものにならん」と、17回もその坂を越えた。けれども、行く度に「お通り、お通り」と言って出してくれない。
 ある冬の非常に寒い日に行ったら、ご主人が出てきて2銭をくれた。その時に、掌に冷たいものを感じた。涙だった。この富豪は、わずか2銭のお金にこれだけ性根を打ち込んで訪ねてくる気持ちに感動したという。それで、いただいた。
 また、あるときには倉敷の紡績工場の女工さんにお願いしたら、その乙女は「実は、今日は給料日です。家には母が病気で寝込んでいます。この給料を心待ちにしています。けれでも、おっさんに感動して・・・・・。」と言って、2銭出してくれた。お坊さんは非常に感動して、その娘の家に付いていった。別れ際に、彼は2円を置いた。2銭もらって2円置いて、感謝して帰ってきた。
 そして、ようやく15万回の頭を下げる願が成就した時、手元にはお金がなかった。1,000円のお金を集めるべく動いたのに・・・・。それを耳にした大阪のある富豪がえらく感動して、「偉い坊さんだ。わしがひとつ、寺を建てるのに協力しよう」と、1,000円のお金を出してくれた。だから15万1人。それで、寺を建てる時には、わざわざやって来て、いろいろと協力をしてくれた、ということでした。(理念と経営8月号 平成26年7月21日発行)

 どこか子供の頃に聞いた昔話の様なお話です。しかし、この話は私にとって商売の原点ではないかと思うのです。
 今の世の中、お金がないでは生活が出来ない。だけど、お金のためだけに仕事をしている訳でもない。商売をしていればいろいろな人と出会い、その人達はいろいろな事情を抱えている。そして、自分もいろいろな悩みをいっぱい抱えて商売を続けている。損して得して、泣いたり笑ったり。全てが合理的に進むはずが無い。矛盾だらけの毎日なのです。でもそこが面白い。なぜか分からないけど、面白い。つらい事が多いのに、商売は面白いですね。